メディアイランド代表の千葉です。
6月20日に発売いたしましたが、見込みが上方に大きく動いて、さっそく増刷を決めました。(以下長文です。)
この本を出そうときめたのは、2015年の秋に出版ネッツの京都フェスタ会場で装幀家の上野かおるさんからお誘いを受けて、ウィングス京都で開催されたトーク&コンサート「唱歌の社会史 なつかしさとあやうさと」に伺ったこと。
以前インタビューをした伊藤公雄先生や高田渡さんと演奏活動をしていらした佐久間順平さんが出演される、久しぶりに野田淳子さんの歌声も楽しみ、というので、かなりミーハー気分で行きました。まして中西圭三さんがどうしてこの場に?という疑問も抱きながら。(ついでに言いますと私は、佐久間さんの「猿股の唄」というちょっと人を食ったタイトルの歌が非常に好きなんです。CD持っています。)
このトーク&コンサート自体が、京都新聞に連載された中西光雄先生の連載記事をもとに開かれたものでした。その連載自体は、文化部の記者である永澄憲史さんの企画です。私は大阪在住ですので、この連載自体全く知りませんでした。(京都に暮らしておられる方は、読んだ覚えがあるなーという方も多いのではないでしょうか。)
著者のお一人中西光雄先生は、国文学者であり、「蛍の光」を研究しておられます。そして、中西圭三さんのお兄さんでもあるのです。
例えば「蛍の光」はスコットランド民謡に日本語の詞をつけた歌だというのは、皆さんご存知だとは思いますが、なぜ卒業の別れの歌が蛍とびかう初夏を想定して歌われるのか、そして、戦後消された3番4番の歌詞があるということをそこで初めて知りました。
つまり、この歌は、1945年の8月15日までは、日本の津々浦々を守る人のための送別の歌であったのです。
また、私も大好きな「我は海の子」も7番まであり、海洋国日本、海軍国日本を担う男の子を称揚する歌であったのです。(いずれもYoutubeで聴けます。)
そのようにして、いろいろな歌の秘密が、トーク&ライブを通じて解き明かされていくのでした。
さて、私は、11歳の時から今までほぼ途切れなく合唱に取り組んでいます。大学時代から今日までは、かなり社会的なテーマを歌い込んできました。歌を選んでいく中で感じることは様々あります。そんな私がこのトーク&コンサートで感じたのは、一言で言うと、歌は歌詞とメロディで感情を掻き立て、どっちの方向にも容易に人を進ませる力を持つということでした。これは怖いことで、歌うものは、意識してその力を使わなければならないということでもあります。
伊藤公雄先生が司会をされたトークの中では、中西先生が歌詞を中心に和歌と唱歌の関連を語られる。
詩人の河津聖恵先生が童謡、特に白秋との関連で語られる。
政治学者の山室信一先生が植民地政策との関連で語られる。
ここで私は、朝鮮でローティーンの時代を過ごした母のことを思いました。母は京城(今のソウル市)の京城女子師範学校で学んでいました。この学校は、日本人と朝鮮人の優秀な女児が選ばれて、小学校の先生を養成していたのです。通常師範学校は5年制ですが、ここは4年制。5年分のカリキュラムを4年で修得するのです。「良き少国民」を育てるためには、たくさんの優秀な教員が必要だったのです。
二十数年前、彼女たちの同窓会に母に付き添って参加したことがありました。日韓両国からたくさんの女性たちが集まったのです。クラスごとの集まりに顔を出すと、全員で文部省唱歌の「朧月夜」と朝鮮民謡の「アリラン」を大声で合唱するのです。戦後も日韓関係は植民地支配に基づく敵味方の関係だという先入観があったので、非常に驚いたのでした。ことはそう単純ではなかったのです。
この日の発見は、歌を歌い続け、朝鮮で教員となった母を持ち、また、従軍画家として戦争画を描いていた祖父を持つ私に、直球でドーンとくるものでした。
これって、私が本にしたい。そして、多くの人たちに伝えたい。そういう風に思い、すぐに永澄さんに書籍化を持ちかけたのでした。
編集のお手伝いは、詩人で編集者の中村純さんにお願いしました。現代語訳をつけた唱歌集、座談会だけではなく、各先生に書き下ろし原稿を無理を言ってお願いしました。
また、ミュージシャンのみなさんにもエッセイを書いていただいています。そして、上野かおるさんが、素敵な装幀をしていただきました。(イラストは出口敦史さん。)
文部省唱歌も童謡も長い間愛され、歌い継がれている歌です。その裏には秘密がたくさんあり、そこには、江戸時代までの「日の本」が、近代国家「日本」になっていくプロセスが隠されているのです。この本も、長く読み継がれていくように思います。
本来ならば、もっともっと前に刊行する予定でしたが、いろいろなことが重なり、ご執筆の先生方はじめ、関係する皆さんを長いことお待たせしてしまいました。お待ちくださった皆様には感謝しかありません。
さらに明治維新150年、童謡100年にあたる今年に刊行できたのは、いいタイミングだったかもしれないなと、ポジティブに、まあ怪我の功名ですが、思っています。
音楽が好きな方、歌が好きな方、日本の近現代史に関心のある方、詩を書く方々、ぜひご一読いただければ、ありがたいです。また、国語や音楽に直接関係しておられなくても、教育にご関心のある方にも大変おすすめです。
近くの図書館にご注文いただくのも「アリ」ですので是非ともよろしくお願いいたします。