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著者に聞く!
『新気づいて乗りこえる 精神的DV(夫のモラルハラスメント)に悩む女性のためのガイドブック』
著者・長谷川七重さんに聞きました
DVに一人で悩まないで
乗りこえていく勇気を共に
近頃、モラルハラスメントは芸能界でも話題になり、よく耳にするようになりました。
そうですね。モラルハラスメントは、フランスのイルゴイエンヌの『モラル・ハラスメント』が出版されてから、日本でも使われるようになってきた言葉です。イルゴイエンヌは、家族(夫婦や親子)におけるモラルハラスメント、職場におけるモラルハラスメントと表現しています。
夫婦間に関しては、テレビなどマスコミが芸能人夫婦の精神的暴力をきっかけにモラルハラスメントという言葉で報道するようになりました。一般の方々にDVは身体的暴力ばかりではないのだということが広まってよかったと思いますね。
確かに「DVとは身体的暴力」というイメージが以前は強かったように思います。使われる範囲も広くなったように感じます。
近年、日本では職場の精神的暴力についてパワーハラスメントという言葉が使われるようになってきています。言葉を得てわかりやすくなったことで、被害者は辛さを理解してもらいやすくなりました。加害者もどのような言動が被害者を傷つけるのか気をつけるようになれば、それはそれでよいように思います。
『新 気づいて乗りこえる 精神的DV(夫のモラルハラスメント)に悩む女性のためのガイドブック』では、特にDV、精神的暴力について書かれていますね。
本書は、DV、特に精神的暴力についてわかりやすくまとめています。
「DV(あるいはモラルハラスメント)とはこういうものですから、こうしましょう」という本が多いですが、それらとは違い、本書では、たくさんのチェックリストを掲載しました。
自分でさまざまなチェックを行い、説明を読むことで、自分がDVにあっているかどうかがわかるようになっています。自分自身の状態に気づき、読んでいるうちに乗りこえていくイメージをつかんでもらえるように構成しています。
読んでいくうちに乗りこえていく……。悩んでいる人は、まず読んでみるということですね。
ええ。あちこち気が向いたところから読むことが可能です。
後半にまとめてある心身のケアをときどき実行して、元気を取り戻しながら読み進める……。そういうこともできるように構成しています。 だんだん成長していく様子をイメージしたカットや、グループのメンバーに書いてもらったアファメーション(自分への宣言)をパラパラ見るだけでも元気になれるかもしれません。
ですから、わかりやすい表現による説明に徹しています。どんな人が読んでも理解してもらえるように、難しい用語は使いませんでした。
「精神的DVを乗りこえていく」、本書にあるような活動を続けるのに、どのような活動を今まで行ってこられたのですか。
当初は、子どものための電話相談や情緒障害児の母子のためのグループカウンセリングなどをしながら、ボランティアで女性のための相談活動をしていました。
その後は、公的機関が女性センターという女性の視点を大事にする相談室を開くようになったので、兵庫県や京都府、その他の市で相談員やスーパーバイズ(カウンセリングの指導)や講演活動をしてきました。
現在は個人開業で主に女性のためのカウンセリングやカップルカウンセリングなどをしながら、ボランティアでDVに悩む人のサポートグループを行っています。
始めは女性のための相談を活動されていて、それがきっかけとなり、DVに悩む人のサポートグループを行うようになったんですね。
ええ。自助グループ(当事者だけで行う)ではなく、ファシリテーター(促進役として私が入っています)が参加しているサポートグループなんです。「悩む人たちが自分一人ではないと思うことができ、共感し合えることが多いので、ぜひグループをやらせてほしい」と京都府の女性センター(男女共同参画センター)に提案しました。講師として講義や演習などを入れたグループワークを5年間委託されて行いました。
その後はボランティアで、フリーディスカッションを中心に行うサポートグループを続けていて、かれこれ12年ほどになります。
どのような方々が参加されているのでしょうか。
受けている暴力の種類や程度もいろいろです。同居の人、別れた人などさまざまな人たちが参加していますよ。元気になり、仕事も忙しくなってくると参加されなくなりますが、時には古参のメンバーが参加され、参考になる体験を話してくれることもあります。さまざまな人たちが参加されていて、運営が大変な面もありますが、当事者の方たちの役に立っていると思います。自分の勉強にもなっていますので、このまま続けたいと考えています。
そのグループワークを通して、特に印象に残っていること、成果など活動を通して、ご自身が感じたことなど教えてください。
そうですね。個人カウンセリングでは、その夫(一人の加害者)の極端な言動と思いがちですが、グループでは「うちもそう」、「うちも」という発言が多く聞かれます。私も加害者たちの言動の傾向として気づきやすく、参加者もだんだん夫の言動を客観的に捉えることができるようになります。そして、夫の言動に対する恐怖から根本にある夫の気の弱さなどに気づき、ばかばかしく思えるようになって、笑ってしまうほど元気になっていく様子が見られるのは感動的です。
また、司法研修生たちの研修会で、ついたての奥からですが、私が付き添いをし、当事者の方たちに思いを語っていただいたことがあります。研修生からは、とても勉強になったと言われ、私たちの活動の意義を感じたこともありました。
個人よりグループの方がいろいろなことに気づきやすいのですね。
そうですね。京都府が当事者の方たちに聞き取りを行った際に、グループが一番役に立ったと答えてくれたようでとても嬉しく、今後も頑張っていこうと思いました。
グループワークを通して、当事者の方々はどのように変わっていかれるのでしょうか。ここまでくれば大丈夫といったポイントなどございますか。
先に話していますように、笑いが出てくるなどの元気さはわかりやすいんですが、フラッシュバックなどからどのくらい解放されたかなどを見極めるのは、とても難しいんです。先日、行ったセミナーで夫の発言に対してどう応えるかの演習を行ったところ、10年以上前の夫の言葉が蘇ってしまってできないという方がいました(数年前から元気に働いておられますが)。このようになれば大丈夫と、簡単に判断はできないとつくづく思いました。
“乗りこえる”というのは、とても長い道のりなんですね。
今回の出版では、『新 気づいて乗りこえる』とし、新たに子どもへの対応について書き足されました。以前よりも子どもについての問題が深刻になっているのでしょうか。
「以前よりも」というより、もともと深刻なのです。「面前DVも虐待である」と法律でも定義されるようになり、子どもの問題も深刻に考えねばと思われるようになってきているのだと思います。
そうだったんですね。
グループに参加されている方のほとんどが、別れてからも子どもの問題に悩まれています。たいていの子どもがDVのあることに気づいています。妻は成人してからの被害になりますが、子どもは小さいころから(発達段階)DVのある状況で育つので、より深刻な影響を受けることが多いのです。子どものため、母子のためのプログラムをもっとたくさん行う必要があると思います。
DVを受けている本人がDVだと気づくのも、難しいようですね。もし、周囲が「何か、おかしい」と気づいた場合、どのように接し、対応していくのがよいのでしょうか。
「いい人」や「立派な人」と周囲から言われている夫が多いので、家での言動を話しても信じてもらえないことがほとんどです。結局、人には二度と話さなくなったという人が少なくありません。
「何か心配ごとはないか」と尋ね、もし本人が話してくれたら、否定せず、とにかくお話を聞いてあげてください。そして、相談機関の情報などを伝えるのがよいと思います。
タイトルにあえてモラハラなどを使わず、『新 気づいて乗りこえる』とした、そのタイトルに込められた思いをお聞かせください。
夫婦間に関しても、モラルハラスメントを使う人が増えてきました。モラルハラスメントという言葉で、DVが身体的暴力ばかりではないという理解を得たこと自体は結構なのですが、DVにおいては、身体的暴力ばかりでなく、性的暴力や経済的暴力、精神的暴力が複合的に行われていることをきちんとみていく必要があるので、モラルハラスメントばかりが強調されるのもどうかなという気もしています。
この本は夫婦間の精神的暴力=モラルハラスメントについて詳しく書いていますが、あくまでもDV全般にふれています。自分がどのようなDVを受けていて、どのように精神的に痛めつけられているのかに気づき、乗りこえることをめざしてもらうための本なのです。モラルハラスメントにするとその言葉に集約されすぎてしまうように思います。
それに、売り切れてしまった『気づいて乗りこえる』を「ぜひ手元に置きたいんです」と言ってくださった方たちのために増補版を書こう決意したのですから『新 気づいて乗りこえる』なのです。でも「モラルハラスメントかも」と本を探されていても出会ってもらえるように、サブテーマにはきっちり「夫のモラルハラスメント」を入れています。
悩んでいる人たちのために、まだまだ活動を続けていかれるのだと思います。今後の目標やこれからの夢などございましたらお聞かせください。
大きな目標はありません。細々でもグループは続けていきたいと考えています。当事者や援助者の人たちがこの本を読んで、グループの有効性に気づき、全国にたくさんのサポートグループや自助グループを立ち上げてくれること、そして司法関係者にも読んでいただいて、当事者や子どもの気持ちに添った対応をするためのヒントにしてもらうことなどを夢見ています。
最後に、モラハラに悩み、初めて『新 気づいて乗りこえる』を手にしようかという読者の方々に一言お願いいたします。
DVにあっているのか、モラハラにあっているのかわからない、自分がどうしたいのかもわからないなど、わからないことばかりで悩まれていると思います。まずは少しずつでも、どこからでも構わないので、この本を読んでみてください。読み進めるうちに、いろいろなことに気づき、乗りこえていく勇気がわいてきますように。
女性の問題やDVの問題に当事者の方たちと共にずっと関わって来られた長谷川先生のお話は、今悩んでいる方たちの何より励みになるのではないかと思います。
貴重なお話をありがとうございました。
プロフィール
1949年生。1990年、京都で「女性のためのカウンセリングルーム和敬」の立ち上げに参加。1992年から「兵庫県立女性センター」女性問題カウンセラー、1997年から「京都府女性総合センター」相談コーディネーターを経て、現在は民間の相談室で心理カウンセラーをしながら、DVに関してのグループワークや講演、論文執筆をはじめ「パートナーとのコミュニケーション講座」「親子のためのアサーション・トレーニング」「子育て・自分育て講座」などの講師活動を女性センター等で行なっている。